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店を守るために新しい被害を増やしてはいけない――破産前の経営判断で大切なこと

コラム

導入

「もう資金が回らない。でも、従業員には給料を払いたいし、お客様にも迷惑を掛けたくない」

経営者であれば、こう考えるのは自然です。

特に、長年続けてきた店であれば、閉店を「逃げ」と感じてしまうこともあります。

しかし私は、この問題の本質は「どうすれば最後まで店を続けられるか」ではないと考えます。

本当に見るべきなのは、

これ以上、新しい被害を作らずにどう着地するか

です。

資金繰りが限界に来ている状態で、新しい前払契約を集め、そのお金で既存の支払いをする。

一見すると、従業員や取引先を守るための責任ある行動に見えます。

しかし、1か月後にそのサービスを提供できるか分からないのであれば、新たな顧客まで問題に巻き込む可能性があります。

いま最優先すべきなのは、店の体裁を守ることではありません。

被害を広げないことです。

相談事例

43歳の女性。

駅前で美容・脱毛サロンを経営しています。

正社員2名、パート2名を雇用し、以前は年商3,000万円を超える時期もありました。

しかし競合店の進出や広告費の高騰で売上が悪化。

銀行融資、カードローン、消費者金融などを利用し続け、借入れは約1,350万円まで膨らんでいます。

さらに、

  • テナント賃料約56万円
  • 税金・社会保険料等約90万円
  • 仕入先約70万円
  • リース料の滞納

もあります。

事業口座にある現金は約42万円。

一方、今月末に必要な従業員給与は約95万円です。

そこで本人は、来週から通常30万円の年間コースを20万円で販売し、10件ほど契約を取って約200万円を集めようと考えています。

そのお金で、

  • 従業員給与95万円
  • テナント賃料56万円
  • 母への返済30万円
  • 残りを仕入れ

に使う予定です。

本人は、

「店が続けばサービスは提供できる。だから詐欺ではない」

と考えています。

しかし、現時点では1か月後まで営業できる確証はありません。

この問題の本質

私は、この問題の本質は「店を続けるか、破産するか」だけではないと考えます。

すでに店には、施術が残っている回数券や年間契約の顧客が約85人います。

未提供分を単純計算すると約420万円相当です。

ところが、その前払金は別に保管されているわけではありません。

家賃、給与、広告費、仕入れ、借金返済などに使われています。

つまり、現時点ですでに、

「お金は受け取っているが、サービスをまだ提供していない顧客」

が多数存在しています。

ここでさらに新しい前払顧客を増やすと、問題を解決するどころか、将来サービスを受けられない人を増やすことになるかもしれません。

よくある失敗

資金繰りが苦しくなると、経営者は、

「あと1回だけキャンペーンをやれば立て直せる」

と考えがちです。

売上を作る。

その売上で給料を払う。

家賃を払う。

仕入れをする。

そして翌月、また資金が足りなくなる。

こうして前払金で過去の支払いを補う構造が続いていきます。

特に危険なのは、

「従業員のためだから」

という理由で新規顧客から前払金を集めることです。

従業員給与を守ることは重要です。

しかし、従業員を守るために新しい顧客へリスクを移すことは別問題です。

私ならどう考えるか

私なら、まず四つのことを止めます。

  1. 新しい前払回数券・年間コースの販売
  2. 母への優先返済
  3. 顧客データの外部提供
  4. リース機器などの任意処分

そして、次に三つの一覧を作ります。

1. 従業員一覧

誰に、いつ、いくら給与を支払う必要があるのか。

2. 顧客未消化一覧

誰に、何回分、いくら相当のサービスが残っているのか。

3. 全債務一覧

銀行、カードローン、家賃、リース、税金、仕入先、母からの借入れなどをすべて並べます。

ここで重要なのは、

「誰に先に払いたいか」ではなく、「今、何が起きているのか」を正確に把握することです。

従業員の給与はどう考えるか

本人は、

「借金が増えても給料だけは払わなければ」

と考えています。

この気持ちは理解できます。

賃金の支払いは非常に重要です。

ただし、だからといって新たな前払顧客を増やすことが唯一の方法ではありません。

倒産等によって賃金が支払われないまま退職した労働者については、一定の要件のもと、未払賃金の一部を立て替える制度もあります。

重要なのは、

「給与を払いたい」という目的と、「その原資をどう作るか」を分けて考えること

です。

母への100万円

相談者は、年金生活の母から100万円を借りています。

母は、

「老後のお金だけど、お店が助かるなら」

と言って渡しました。

本人は、

「母だけには絶対に返したい」

と考えています。

感情としてはとても理解できます。

しかし私は、「母に申し訳ない」という気持ちと、「今30万円返すべきか」は分けます。

破産を具体的に考える段階で、親族だけにまとまった返済をすることには慎重さが必要です。

親族への借金も隠さず、いつ借りたのか、いくら借りたのか、何に使ったのかを整理します。

顧客データを売るという考え

相談者は、知人から、

「顧客リストなら50万円くらいで売れるかもしれない」

と言われています。

しかし、顧客情報は単なる換金可能な資産として扱うべきものではありません。

そこには、

  • 氏名
  • 住所
  • 電話番号
  • メールアドレス
  • 生年月日
  • 施術履歴
  • 肌状態

などが含まれています。

個人データを第三者へ提供する場合、原則として本人同意が必要になるなど、個人情報保護の問題があります。

事業譲渡として適切に引き継ぐ場合と、単に名簿を売る場合は同じではありません。

「50万円になるから売る」という発想で動かないことが大切です。

最善策

私は、このケースでは、

「最後まで店を守る」のではなく、「新しい被害を作らずに店を着地させる」

ことを最善策と考えます。

まず新規前払販売を止める。

次に、既存顧客、従業員、家賃、リース、税金、仕入先、借金をすべて一覧化する。

そして、

新しい前払金を集めなくても営業が継続できるのか

を短期間で判定します。

それができないのであれば、事業譲渡や廃業、破産を含めて速やかに着地点を決めます。

廃業は逃げなのか

本人は、

「経営者だったのに雇われるのは恥ずかしい」

と話しています。

しかし、美容業界での経験は長く、雇用されれば月20万円から25万円程度の収入を得られる可能性があります。

私は、ここを非常に重要だと考えます。

借金を増やして店を維持するより、事業を閉じて安定した給与収入へ切り替えた方が、本人と家族の生活にとって安全な場合があります。

事業継続が成功、廃業が失敗とは限りません。

生活を立て直すために撤退することも、立派な経営判断です。

なぜ法律だけでは解決できないのか

自己破産をすればどの借金が整理できるか。

給与や税金はどうなるか。

リース機器はどう扱うか。

こうした法律上の確認は必要です。

しかし、法律手続だけではこの問題は解決しません。

破産しても本人の収入がゼロなら、家族の生活は続きません。

逆に、店を守るために新しい回数券を売り続ければ、法律上の問題以前に顧客被害が拡大する可能性があります。

だから私は、

「破産するかどうか」

だけでなく、

「破産や廃業のあと、本人がどう働き、家族がどう暮らすか」

までセットで考えます。

実務上のチェックポイント

私なら、まず次の項目を確認します。

  • 全借入先と残高
  • 事業口座・個人口座の残高
  • 従業員ごとの給与額
  • 給与支払日
  • 未払い給与の有無
  • 既存顧客の契約一覧
  • 顧客ごとの残回数
  • 未提供サービスの総額
  • 来週のキャンペーンがまだ始まっていないか
  • テナント賃料の滞納額
  • 保証金
  • 原状回復費用
  • リース契約
  • 機器の所有関係
  • 仕入先への未払い
  • 税金・社会保険料等の未納
  • 母から借りた100万円
  • 生命保険の解約返戻金
  • 車の時価
  • 顧客情報の管理方法
  • 事業譲渡の現実的な候補
  • 今後1か月の確実な売上
  • 雇用された場合の収入
  • 夫へ説明している借金額
  • 家族の今後の生活費

これらを一つずつバラバラに見るのではなく、廃業と生活再建を一枚の計画にすることが重要です。

まとめ

経営が苦しくなったとき、

「最後に売上を作って、みんなに払ってから閉めたい」

と思う気持ちは理解できます。

しかし私は、そのために新しい前払契約を増やすことには慎重になるべきだと考えます。

まず新しい被害を止める。

顧客を整理する。

従業員を整理する。

すべての債務を把握する。

事業継続が本当に可能かを短期間で判定する。

そして、続けられないのであれば、廃業や破産を含めた着地を決める。

重要なのは、

「誰にも迷惑を掛けない終わり方」

を無理に作ることではありません。

「これ以上迷惑を増やさない終わり方」を選ぶことです。

私は、このケースでは、店を守ることより、顧客・従業員・家族、そして本人自身のこれからの生活を守ることを優先します。

免責文

※この記事は、個人事業の経営悪化、自己破産、従業員給与、顧客前払金、リース、税金、個人情報などが重なったケースについて、実務上の考え方を整理した一般的なケーススタディです。実際の破産手続、未払賃金、顧客契約、税金・社会保険料、親族への返済、個人情報の取扱い、リース契約等の判断は、具体的な事実関係、契約内容、時期、金額、資料、申立先の運用等によって異なります。本記事のみをもとに個別の法律判断を行うものではありません。

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